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こんな時だからこそ、みんな仲良く - 舞台「23区女子」ネタバレあり感想 -

ネタバレ注意です

先日、バンドリで牛込りみ役の西本りみさんが出演されるということで、冨江洋平さん脚本・演出の舞台『23区女子 -Survive-』を観劇しました。
冨江さんの舞台は、同じように西本さんが出演された朗読劇『学園デスパネル』も観に行ったのでそれ以来になります。

ツイッターでも簡単に感想は書いたのですが、あそこだと細かくシーンに触れていいものか悩みますね。それで奥歯に物が挟まっているようなことしか書けず悶々としたので、ネタバレを気にしない感想をこちらで。

戦う女の子は好きですか?

女の子どうしが仲良くしているのを眺めるのは?
仲良さげな関係を見て不快になる人もそうそういないと思いますが。
それらが好きな人ならきっと気に入られたのではないかと。

2020年の大事件によって、首都は西に移り東京特別区は新・東京共和国として独立する大政変のおきた日本。東京共和国の不安定な政情を治めるために実施された政策が「23区女子」。通称「ゼロサム」。各区が18歳の少女を代表者として出し、優勝して政権を握るため地下を舞台に戦わせあう政策です。
物語は18回目のゼロサム開幕と共に始まります。

格闘技など、どの区の代表もそれぞれ何かしらスキルを持っているなか、主人公の中野区代表・天塚のぞみは戦いに使えそうな能力を持たない娘。
スカートの裾を掴み怯えている姿が多いのぞみですが、他の区の代表から恐れられている新宿相手に自らの言葉をまっすぐ伝えようとすることができる強さを持っています。
ゼロサムが初施行された年に産まれ、それが当たり前の社会で育ったがために制度を、歪んだ倫理観を受け入れてきてしまった少女たち。その当たり前に純粋な疑問をぶつけられる強さこそ、のぞみの持つ立派な、世界すら変えられるかもしれない才能だと思います。

2020年の大事件で全てを失い運命を呪う大統領と、明言はされませんが離れ離れになった実の娘であるのぞみの物語も同時に進行していました。
大統領の最後の振舞い。取り乱して秘密をベラベラと喋りだしたように思えたのですが、あれってそういう振りをしてカメラの前で全てを明かすことが目的だったんですよね。そして銃をとり、全員を狙うと思いきやカメラだけを破壊する。見事でした。
何の取柄もないように見えるのぞみがゼロサムに参加させられたのは、大統領の差し金だったのかとも考えましたが、たぶん偶然なのでしょう。しきりに気にしていたのは父親としての姿なんですね。

人を傷つけるのはダメだとひたすらに説くのぞみの健気な姿に、周囲が影響を受けていく。彼女自身もまた交流を通じて成長し、理想を実現するだけの戦う意思を獲得していく。物語の終わり、対立していた23人の少女たちが区を越えて互いに手を取り、笑いながら地上へ帰っていく光景にあの世界での希望を強く感じました。

千代田区代表について

西本さんが演じられた千代田区代表。
足取りはゆったりと時間をかけて。余裕たっぷりの振舞い。
声色は綺麗で、語り口も丁寧。だからこそ放たれる慈悲のない言葉がよく映え、気品あふれる様子でも、近寄りがたい冷たさを帯びている。
それが千代田の第一印象でした。

千代田はゼロサムが絶対に千代田区が1位で終わるヤラセであること、参加した代表者の少女たちは全員が亡き者にされることを教えられて育てられています。どことなく諦めにも似た寂しげな雰囲気を感じたのは、そのせいなのでしょう。
家庭環境が厳格なもので、他者との接触も制限されていたのであろうことは想像に難くないですが、それに加えてきっと、親しい関係を作ることに意味はないとすら考えていたのではないかと。18で終わる命であることを知っているから。
だから、中央と友達になったときの「あら、嬉しい。初めてのお友達ですわ」と強がっている姿がたまらなく愛らしく感じたのです。
このときの、身を固くして懸命に言葉を振り絞っている振舞いが好き。

文武両道の超存在らしく、ラストバトルのラスボス感は半端なかった!
そもそもラストバトルの前に、新宿が撃った銃弾を素手で捕まえて捨ててるんですよ! それだけでもどうしようもなく強いことが伝わって、だいぶ好きな場面なんですが。
優雅に無駄なく刀を振るう姿や後ろからの攻撃も難なく避けている姿、刀を構えて立つ姿。戦う姿は畏怖の念を抱かずにはいられないものでした。
超越的な戦いぶりでも悲しみを背負っているような裏腹な様子に魅せられました。
刀で切りつけてるから血しぶきが飛んでいるのだろうけど、個人的に千代田の戦い方は千代田自身には一滴も血が付かないようなものであってほしいと思っています。最後まで美しく。そんな完璧な戦いを繰り広げられる超存在。それが千代田の戦闘であってほしい。

千代田について気に入っている場面のひとつは、終わりのほうで文京の妹の手術が成功したことを、文京に伝えに行くところ。
腕を組んでゆっくりと文京たちのもとへ近づいていくときの仕草が良かった。
千代田は腕を組んでいることが多いのですが、この場面では腕を組み、袖を強く掴んでいたんです。まるで自分自身を抱きしめるように。
直前には裏切った文京のことを江東がはっきりと赦しているシーン。それをうけてのこの仕草。自らがしてきたことへの自責や、赦されないだろうという思いから生まれた不安が感じ取れました。彼女の本質が見えた気がして、近寄れない印象だったそれまでよりもぐっと千代田との距離が縮まったように感じてとても好きです。
この場面に続く中央との会話。「もう一緒にいる必要はなくてよ」と言われて「あったりめえだ」と離れていく中央の背中を、そっと目で追っていたのもすっごく好き。
そして先に挙げた中央と友達になるシーンですよ。
孤影悄然なんかじゃ全然ないよ千代田! 22人も友達ができるんだから!

こうしてみると特に終盤は千代田の持つ人間らしさが生き生きと描き出されていることに気付きます。そうして千代田の姿を親しみあるものに再構築しているから、手を取り合おうとする23人の中に無理なく千代田を入れることができたのかな、と思ったりしました。

最後に中央と仲良く、笑顔で話しながら歩いていくのが素敵でしたね。
本当の彼女の笑顔は終盤でしか観られないから、絶対に見逃せない物でした。
あと登場曲好きです。

中央区代表について

続いて山本太陽さんが演じていた中央区代表。
敗者部屋での「よくお聞きになって」のときにセリフにはなっていないけど、千代田から耳元で真実を教えられていたのかなと思っていました。実際、それ以前はどちらかと言えば利害関係から一緒にいた印象だけど、それ以降はナイトそのものでしたから。
ただ、今はセリフと状況をそのまま受け取って、少なくともあの時点では純粋に千代田の強さに武人として惹かれたのではないかと考えています。ここで、中央にとっての千代田は、仕えたいと一途に思うことのできる相手に変わったのではないかと。

スローモーションのシーンは見応えがあって格好良かったなあ。中央さんに限らないけど、あのシーンはむちゃくちゃ体力使いそうで筋肉も必要そうに感じて、2公演連日やるの本当に凄いと思います。
そのスローのところで中央が倒した人たちの間を千代田がゆっくりと歩いていくのが、超然としててこれもまた非常に印象深いんだ。

終盤はずっと、千代田のことを後ろから支えていたのがとても良かった。
特に、大統領が話している後ろでだったと思うけど、千代田が持っている刀をさりげなくとっていたのが凄く好きです。
きっと刀を固く握りしめている千代田の指をひとつひとつ解きほぐすようにとったんじゃないかな。もう良いんだよって思いを込めて。
手元は見られなかったから想像だけどもきっとそう。その方がキュンキュンする。

利用しあう間柄から主人と家臣、そして友達へ。この関係性の変化が千代田と中央の物語の魅力です。

江東区代表について

江東「江東区だよ!」
渋谷「あぁ、あの生活居住区75%が水浸しのな」
江東「そうそう。ウチの区は美しきウォーターワールドの世界なのよ」

三浦菜々子さんの江東区代表には、最初のこのセリフと直前の振舞いで、楽しくて良い娘だなあと目を奪われました。
7割以上が海に覆われているんですよ? 暮らせる場所は限られて、そんなに生活も良くないだろうに。"美しきウォーターワールド"と表現できる性格の良さにただただ惹かれました。めちゃくちゃ笑顔だし。
道路が冠水したら魚やカニを手掴みで採れるんだよと楽しそうに話していたり。極端に悲観しない底抜けのポジティブさが、どちらかと言えば殺伐とした状況のなかで輝いていて。それが魅力的にうつったんですね。

千代田のことを最後まで「千代ちゃん」と呼んでいたのも印象的。たぶん中央に続いて千代田との距離が近づくのは江東なんじゃないかな。千代ちゃん千代ちゃんと寄ってくる江東に最初は戸惑いつつもだんだんと受け入れていく千代田。そのうち江東を介してのぞみや文京、そして他の娘たちとも輪が広がっていくのです。

江東は誰にでも分け隔てなく笑顔で接することができる凄い娘。のぞみは誰かに倒される前に彼女と出会えて本当に良かった。
みんなと戦いたくなんてないと願うのぞみの想いを肯定し支えていた江東の存在は、のぞみにとって貴重で大切だと思うんですよね。認めてくれている人がいるのってそれだけで励みになりますから。
そんな江東が文京に裏切られ刺されて中央に殺される場面は、周囲の悲惨さと合わせて、のぞみの決意に直結する重要なポイントだと感じます。
文京に刺されても、ずっと文京のこと信じて疑わないんですよ。痛みに耐えながら「間違って刺さっちゃったんだよね」という姿に彼女らしさがあふれていて、いやもうホントなんやかんや生きててくれて良かった……

江東は笑顔も振舞いも快活で前向きで可愛かった。あんな娘が友達なら楽しそう。友達になりたいと思える長靴ちゃん。それが江東!
ところで江戸川さんが縫った傷口のネズミマークは、千葉の夢の国の彼なんでしょうね。